ゼロの愛人 第14話


「何がどうなって、俺の所に来ようなんて考えに至ったんだ」

ちゃんと聞くから、わかるように説明しろ。
ルルーシュはスザクの目を見つめながら質問すると、スザクはぽっと頬を赤らめて、若干目をそらし、恥ずかしそうに口を開いた。

「なんでって、ルルーシュの側にいたかったから・・・」
「まじめに答えろ!!」

もじもじとしながら話す姿が、自分を馬鹿にしているように見えたルルーシュは、大声で怒鳴った。あまりの大声に、至近距離で怒鳴り付けられたスザクは、耳鳴りがするのか両耳を抑えてその両目を固くつぶっていた。どれほどの大きさかといえば。ルルーシュが肩で息をするレベルでの大声だ。
恐る恐る耳から手を離し、スザクは両目を潤ませて悲しげに眉を下げ、上目遣いでルルーシュを見つめた。これは先程も見た光景だなと周りは思った。そんなスザクの態度に、うっ、と声を詰まらせるルルーシュも2回目だ。
こいつ、計算しているな。
誰もがそう思ったという。
ルルーシュ以外。

「えーとね、君がまずここに来たでしょ。で、監視役のロロをここに送り込んだんだけど、なんかここに居座っちゃって報告すら上げてこないし、潜入した他の人は、どう考えても君の配下になってる感じだし・・・だから、新しく何人か送り込んで報告してもらったわけなんだけど・・・ね?」

それまでの体を小さくして、ルルーシュの様子を伺う叱られた子犬のような表情から一転、どす黒いオーラを吹き出した、背筋がざわりとするような笑みで言った。

「ねぇルルーシュ。ゼロの愛人って、何かな?」
「・・・何かと聞かれてもな」

玉城が言い出した言葉で、ルルーシュ自身も迷惑していたのだ。
何だと聞きたいのはこちらのほうだ。

「ゼロは君だろ?君が君の愛人になんてなれない。でも情報だと、そのゼロは君に馴れ馴れしく接し、ボディタッチも人前で堂々とするっていうしさ?」

ねえ、そのゼロって、誰?
教えて?
声は穏やかで柔らかく、顔には笑みを浮かべているのだが、その眼は笑っていない。
嫉妬心丸出しの雄の顔だった。
ルルーシュはスザクの変化に対応しきれず、脳はイレギュラーと判断しフリーズした。
そんなルルーシュに気づいているのかいないのか、スザクは言葉を続ける。

「心配になってナナリー連れて来てみれば、君は行方不明だって言うし、GPS頼りに見つけたら襲われてるし、君、なにしてるのさ?」
「あ、あれは、俺のせいではないだろう!」

ナナリーの名前でどうにか戻ってきたルルーシュは、どもりながらも反論した。

「のこのこ人気のない場所に着いて行くのが悪いだろ!」
「ああ見えてもあの中の一人は騎士団のNo2だ!用があると言われれば行くだろうが!!」
「ルルーシュ!男は皆オオカミなんだよ!君みたいな美味しい羊を前にして、今まで何もなかったほうが奇跡だろ!」
「意味のわからないことを言うな!この馬鹿スザク!」

いつのまにやら席から立ち上がり、今にも殴りあいそうな剣幕の二人の間に、C.C.はするりと身を潜りこませ、カレンがひょいっとルルーシュを引っ張った。

「検査の結果問題ないと言われたが、ルルーシュはあれだけの暴力を受けたばかりだぞ?何を興奮させてるんだお前、死にたいのか?」

感情の見えない表情でC.C.がスザクを見据えると、不愉快げにスザクは顔を歪めた。
邪魔をするなと殺気を込めて睨みつけるが、C.C.は冷たい視線を返すだけだった。

「はいはい、ルルーシュはこっちよ~。ナナリーちゃんに会いに行きましょうね~」

スザクなんかとこれ以上話すことなんて無いですからね~

「な、ナナリーに!?よし行くぞカレン!ロロ、お前も来るんだ、ナナリーに紹介する」

すでに記憶改竄の設定を忘れたのか、もうその設定を通すのを諦めたのか。ナナリーという名前に即反応し、立ち直ったルルーシュはロロを呼ぶと、「え?僕?」とロロは驚いた声を上げた。

「当たり前だろう、お前は偽りとはいえ俺の弟だ。この場合はナナリーの弟だな」

兄の座はやらん。
ナナリーにお兄様と呼ばれていいのは俺だけだ!

「え?え?」

絶対に捨てられると思っていたロロは、混乱し立ち尽くした。

「来るのか?来ないのか?ああ、別にいいんだぞ、来なくても」

冷たい声で言うのだが、恥ずかしいのかその頬が赤く染まっていた。
ボロ雑巾になるまで使い倒し捨てるつもりだったが、ナナリーとスザクの手前、そんなことなど出来はしない。そう、俺がそんな人非人な事を考えていたと知られたくないからであって、けして「弟もいいな」なんて思っていたからじゃないんだ。
そんなことをぐるぐる考えながら、ルルーシュは子犬のように慌てて駆け寄ってきたロロとカレンを従え部屋を後にした。残ったのはC.C.咲世子、そしてスザク。
互いに敵を見るような視線で睨み合う姿に、咲世子は、さてどうしましょう?と考えながら渋茶をすすった。
先に仕掛けたのはC.C.

「言っておくが、ルルーシュと私は将来を誓い合った仲だ。手を出すな」

尊大な態度でC.C.は言った。
スザクは冷たい光を宿した瞳をC.C.へ向ける。

「・・・へぇ?じゃあ、噂のゼロは君なのかな?」

ルルーシュのベッドに緑色の長い髪が落ちていたことを思い出し、スザクは冷たい声音でそう尋ねた。そうだ、彼女は元々ゼロの愛人と呼ばれていた。もしかしたら二人きりの時には、いつもああやって・・・・
そんな妄想をしてしまったスザクの目は、みるみると据わっていった。

「イエスでもありノーでもあるが、お前には関係のないことだ。しかし、お前、ルルーシュの監視をシャルルに任される前から、あれを監視してたとはなぁ?」

あんな万年筆を送って、どうしたかったのやら。

「ルルーシュとナナリーの安全を考えて悪いのかな?」
「ナナリーにも渡してるのか」
「当然だろう」
「全く、日本を取り返すという望みでラウンズ入りしたくせに、まさかルルーシュに対する嫉妬と執着がそれを上回るとはな、予想外だよ枢木スザク」
「それはどうも。それだけのものを捨ててきたんだから、目的は果たすよ」

全て捨ててきた。
日本をとり戻すという夢も。
生徒会の皆も、同僚のジノとアーニャも。
優しかったロイドとセシルも、アーサーも。
・・・ユーフェミアを殺された憎しみも。
全て捨ててここに来た。

ルルーシュを失う。
記憶だけではなく、そのすべてを誰かに、奪われる。

そのことに気がついてから、スザクは自問し続けた結果、この答えを出したのだ。
日本人に日本を返すという大きすぎる目標ではなく、ルルーシュとナナリーのそばにいて二人を守るという答えに。
なにより、自分以外の誰かのものになるなんて、許さない、許せない。
ルルーシュの命は、僕のものだ。
彼を生かし殺す権利を誰かに渡すなんて冗談じゃない。
自分勝手な独占欲を撒き散らすスザクに、C.C.は不愉快そうに目を細めた。

「そんなこと、させるわけないだろう」

バチバチと火花を散らす二人を眺めながら、咲世子は「やはりお二人は只ならぬ仲だったのですね」と、納得したような面持ちで煎餅をかじった。

その後、ランスロットとスザクというパーツ目当てにロイドとセシルが合流し、黒の王が白の騎士と赤の戦士を従え、日本を取り戻すのはもう少し後の話。

13話